白紙小切手会社との合併による株式公開で数十億ドルを調達する計画が多数存在。
発展型エアモビリティ(Advanced Air Mobility:AAM)業界における先駆者たちはストーリーテラーであり、彼らが語る物語が、白紙小切手会社との合併を通じて数十億ドルの資金を調達する計画の原動力になっている。
しかし、アメリカ証券取引委員会(SEC)が特別目的買収会社(SPAC)に関する規則の改正を検討しており、後続の企業は自らの物語を語ることが難しくなる可能性がある。
Archer社、Joby Aviation社、Lilium社、そしてVertical Aerospace社はいずれもSPACとの合併を検討しており、他の主力企業も機体やサービスの市場投入に必要な資金調達を目指しているため、さらに多くの取引が見込まれている。
一見すると、どの会社も似たような話をしている。それは、先進的な技術と経験豊富なチームを持ち、市場規模1兆ドルのマーケットで最初に成功し、数十億ドルの収益を生み出すビジネスプランがある…というものだ。
ただし、よくよく観察してみると、彼らが語る物語には大きく異なる部分もある。これらの物語は、スタートアップ企業が年内に合併を完了させるべく、投資家やアナリスト向けに実施されてきた巧妙なプレゼンの中で語られてきたものだ。
SPACは、上場して資金調達するための手段として一般的な方法になっている。従来の新規株式公開(IPO)と比較して、SPACの方がより早く、そして市場環境に価格が左右されるIPOと違い、確実な価格で完了することができるからだ。
しかし、AAM業界でSPACによる合併が主流になっている主な理由は、まだ収益を上げていない企業であっても、その財務的なポテンシャルを予測して評価できる点にある。これも従来型のIPOと大きく異なる部分だ。
電動垂直離着陸機(eVTOL)というまったく新しいジャンルの航空機を開発・認証・製造・運航するには数十億ドルの資金が必要で、未だ存在しないこのマーケットのトップに立つためには、成長ストーリーを語ることで投資を集めることが不可欠だ。
上場企業はアメリカ証券法のセーフハーバー条項により私的訴訟から保護されているため、将来予測に関する発表を行うことで投資家にガイダンスを提供することができる。一方、IPOにはそのような保護がなく、将来予測を行うことも禁じられている。
SPACの始まりはIPOで、そこからターゲット企業と結合する行為がde-SPACと呼ばれ、これが合併とみなされてセーフハーバーによる保護を受ける。これにより、成長予測や数十億ドルの評価額を正当化するような派手なプレゼンを行うことが可能になる。
しかし、このところ津波のように押し寄せている様々な分野の取引に対応するため、SECはSPACの規則を見直してIPOと同様に扱うことも検討しており、この状況は変わる可能性がある。将来予測を禁止または制限するような動きがあれば、AAMスタートアップが資金調達を行う能力が損なわれる可能性がある。
とはいえ、それは将来の話であり、Archer社、Joby社、Lilium社、Vertical社いずれもが今後数ヶ月のうちに上場し、数十億ドルを調達する予定だ。ただし、それでも不都合が生じる可能性もある。
合併が完了する前に、SPACの株主は出資分を会社の株式に転換するか、資金を償還させるか投票することになる。過去の例を見ると、これはSPACの取引状況と密接に関係しており、株価がIPO価格を10ドル下回ると償還されるケースが増える。そして、7月12日時点で全てのAAM関連SPACは10ドル以上下回っている。
一般的に、SPACのスポンサーである機関投資家が参加するPIPE(限定された投資家からの私募増資の引き受け)がSPAC取引に付随しているのは、このような潜在的な資金不足に備えることがひとつの理由だ。このPIPEの内容が、AAM関連のSPAC間で異なる要素のひとつでもある。